夜のしめやかな願い
「そうじゃない」
「いやいや、本心の時もあるんだけど。
まあ、往々にして隠すためなのは否定しない」
「末っ子って、そういうの上手だよね。
世の中を渡っていくのに、少なからずそういうのは必要だと思う」
「まあね」
「たーくんの方がオミよりも非情で冷徹だし」
さゆりは呟いて遠いところを見る目つきになった。
何の過去を思い出しているのやら。
「で?」
宗忠はアイスカフェオレのストローをくわえて、やや放置気味に促した。
ぞんざいな態度に、さゆりはちょっとにらんでから、顔をひきしめた。
「本当は、オミは優しくて思いやりがあるってわかっていたのよ。
それを私が許さなかった。
私が強いていたの。
ずっと。
あのオミの振る舞いを」
さゆりの横顔は冴え冴えとし、凛としていた。
宗忠はそれを見つめてしばらくの沈黙後、微笑する。