夜のしめやかな願い
*
「さゆさゆ」
どこで呼ばれても、絶対に聞き落とさない声。
さゆりは振り返った。
「たーくん、来てくれたんだ」
「もちろん。
さゆさゆが出るんだから」
宗忠は持っていたブーケを手渡した。
「ありがとう」
嬉しそうな笑顔を見下ろしてから、さゆりが声をかける前まで話していた相手に視線を移した。
にっこりと笑いかけるが、相変わらず相手は無表情だ。
「そうだ」
宗忠はわざとらしく声の勢いを上げた。
「今日は兄さんも一緒なんだ」
宗忠は少し体をずらして、後ろにいる人が見えるようにする。