夜のしめやかな願い

       *

さゆりはバイオリンレッスンの後、音楽教室の事務仕事を残ってやっていた。

ちゃんと残った時間分を払ってくれるので、さゆりにはありがたい。

多ければ、多いほど、食事の質が上がる。

今日は来月の振替レッスンの下準備だ。

Excelの表に、時間が変更になったレッスンを修正し、臨時教師に代わっているの所の先生名を変更する。

出来上がったものは音楽教室のホームページに掲載するので、慎重だった。

裏口のドアのカギが外れる音に、集中力を破られ、さゆりは体を固めた。

ゆっくりとドアが開き、暗闇から現れたのは、黒いシャツに黒いスラックス姿の啓だった。

啓の外見も雰囲気も、闇から生れ出たようなのに、誰だかわかっても、しばらくさゆりは硬直していた。

乱れた前髪からきらりと瞳が光った。

「何やってるの?」

低い声に、さゆりはびくりと体を揺らした。

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