夜のしめやかな願い

瞬後、啓の横っ面に張り手が飛んだ。

「くっさっつ」

いつの間にかさゆりが椅子に座ったまま、最大限に遠ざかっていた。

「おまえ、ひっでー。
 確かに焼酎とするめだから、匂うかもしれないが」
「なんですか、それ。
 啓先生はバーボンでしょ」
「は?
 それは親父」
「そんなのイメージ真逆ですって」

弾丸のようにやり取りをしてから、二人とも息をつく。

啓は乱れていた前髪をばさばさと後ろにかき上げた。

「ちょっと悪乗りした。
 怖がらせて悪い」
「ホントです」

さゆりはむくれる。

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