夜のしめやかな願い
「仕事熱心なのはいいけど、いい加減帰れ。
遅すぎだろ」
「そうなんですけど・・。
啓先生は?」
「おれ、弾きに来ただけだから。
戸締りはやるから、先、帰っていいぞ。
あ、悪いな、送ってやれなくて」
「え?それはいいんですけど。
えっと」
壁にかかっている時計を見上げた。
そしてパソコンの画面を見る。
「明日にすればいいだろ。
もうちょっとレッスンスケジュール、動くぞ。
親父がコマを増やすとか言ってたから」
「そうなんですね・・・。
だったら、今日、頑張って固めても無駄ですもんね。
うん、帰ります。
お疲れさまでしたー」
「おま、切り替え早いな。
ま、気をつけろよ」
さゆりが出ていったらドアのカギを閉めるからと、帰る準備をするのを見守っている。