夜のしめやかな願い

無言の圧力に追い立てられながら、さゆりは荷物をまとめ、抱えたまま外へ出た。

「大通りから横道に入ったら、電話しろよ」

開けたドアを掴んで寄りかかり、啓がさゆりを見下ろした。

「危ないから」

思わぬ言葉にさゆりがキョトンとしている目の前で、啓はドアを閉め、カギかけた。

吐息をついて、レッスン室に入る。

よりによって今夜、会うとは思わなかった。

啓だって、感情のままに、ただピアノを弾きたい時があるのだ。

誰にも知られずに。

啓は愛する者の肌に触れるように、白鍵をなぜた。


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