夜のしめやかな願い
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昨晩から仕事を詰めているというのに、思うように仕事が進まず、コンサートが始まってから会場にもぐりこんだ。
座席に座ると、体が埋もれる感覚で、流れている演奏が頭に籠る。
宗臣はやっと体調がすぐれないことに気が付いた。
ふわふわと雲の中で音楽を聴いている感じ。
目を開けられなくて、ただただ音楽と拍手が交互に流れていくのを、ぼんやりと捉えていた。
やがて何曲目かの曲が耳に入った途端、宗臣はため息をついた。
光を帯びた音が、明確に宗臣の中に届いてくる。
その演奏が誰のかは明白だった。
口元が緩む。
暗闇の中、いつだってさゆりの音は光の糸だった。
か細くて、救われたいために掴めば、切れてしまいそう。
でもその放つ光は、閉ざされた人生の中で、希望だった。