夜のしめやかな願い
宗忠は結婚式の招待状を渡し終わると、用件は済んだとばかりに、倫子さんのところに早く帰りたいから、と言い放って早々に店から出て行った。
変れば変わるもんだ。
宗臣は半分呆れる。
もう半分はうらやましさだ。
昔から、宗臣は、弟二人がうらやましかった。
自分の内面に対して目をそらさないことに。
宗臣はふうっとため息をつくと、自分も店を後にする。
帰る場所は、あの事務室だ。
ふと目の前にそびえたつタワーマンションを見あげて、口の片端で笑う。
なんの疑問もなく、こんなタワーマンションの最上階に住み、家名と学歴と職業に寄ってくる人々に囲まれ、かしづかれていた。
今や何もない。
その月々を乗り切るために仕事を取ってくるのが精いっぱいだ。