夜のしめやかな願い
春の夜らしい冷えた空気の動きを感じると、一陣の風が吹き抜ける。
視界を白い紙吹雪が遮った。
風が通り過ぎると、乗り切れなかった破片が、ひらりひらりとゆっくりと舞い降りる。
白い破片ではない。
こんなところで紙が舞うわけがなかった。
春に桜が咲いて、花びらが散るなんて、長らく忘れていた。
今は、春なのか。
「あ、良かった。
事務室が暗いから今日はいないのかと思った」
けろっとした能天気な声が後ろから聞こえる。