夜のしめやかな願い
「そうだ。
今日、ラフマニノフのパガニーニのラプソディーを弾いているのを聞いて、思い出したよ」
「ん?」
「オミ兄が日本に戻ったばかりの時、二人でさゆさゆの演奏会を聞きに行ったじゃない?」
「うん」
たぶん、あの可愛らしい花束をもらった時だろう。
「あの時、あの男のピアノ伴奏でこの曲を弾いたよね」
「そう、だったかな?」
遠くてあまり記憶に無い。
「見事に二人で愛を語らっちゃっている演奏だったもんだから、物凄く、オミ兄、機嫌悪くなっちゃって」
語らってないと思うんだけど。
さゆりは首をひねった。