夜のしめやかな願い
*
その時、さゆりは宗臣をただ眺めていた。
見入っていたのかもしれない。
冴え冴えとした空気。
きっちりと整えた茶色の髪や大きな二重の目も、くちびるの線ではクールな王子様に見える。
現に、そう周りは囁いていた。
でも、いつだって宗臣が感じさせるのは、寒い冬の月夜だ。
いつも冷たい。
いつも凍りつく。
宗臣に見下ろされている父が小刻みに震えているのに、さゆりは後ろ暗くも喜んでいた。
この父は嫌いだ。
母も嫌い。
だから慈悲もなく踏みにじってくれた宗臣に見惚れたのだ。
宗臣が視線を動かした。
目があって、さゆりは自分が笑っていることに気が付いた。
それを見て宗臣が一瞬だけ、柔らかく微笑する。
見間違いだろうか。
きっとそう。
さゆりは父親が連れ去られていくのを、ただ他人事のように見送った。