夜のしめやかな願い

「なんだその演奏は。
 ただ流しているだけ。
 それじゃ全く練習にならない」

宗臣は譜面を鉛筆で叩いた。

「ここから。
 スケールが、うどんかそばだ」
「はあ~い」

オミに似合わない表現と思いながら、さゆりはスケールを弾き直す。

担保価値の確認。

音大の卒業。

就職。

「ひっ」

鉛筆が今度はさゆりの額を叩いた。

思わず涙目になって、宗臣を見上げる。

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