夜のしめやかな願い
2.
*
こうして、さゆりの父の会社は倒産した。
2代目であった父が、不甲斐ない経営者だったから。
安易な考えで脱税を繰り返し、それを国税局に勤める宗臣が暴いた。
信用を無くし、資金繰りに行き詰まり、倒産した1ケ月後、父は事故死した。
飲酒運転でガードレールを突き破り、海に落ちた。
母はそれから半年後に薬物で中毒死した。
何もかも売りはらって、どん底の生活となったことに耐えられなかったのだ。
そういうプライドの持ち主だった。
もはや葬式を出す余裕もなかったから、すぐに焼いて墓に入れた。
鮮やかな新緑が輝く、爽やかな午後だった。
喪服姿の宗臣が窓の外を眺めている。
畳の上に片膝をたてて座り、窓に寄りかかって。
いつ見たって綺麗な横顔だが、事の更、冴えわたっていた。
こばれる光が前髪を煌めかせ、なめらかな肌を滑り、陰影をつける。
さゆりは無心でただ鑑賞していた。