夜のしめやかな願い
「昔から、あの男が政治家にさせたがっているのを、宗忠からでも聞いているだろ?」
3兄弟があの男と呼ぶ父親は、宗臣を政治界に、宗雅を経営者に、宗忠を医者にすると公言していた。
自分の父親をあの男と呼ぶぐらい反発しているのに、3兄弟は望まれる道を歩んでいる。
宗忠が言っていたことがある。
ならないように反発するのではなくて、なってから、踏みつぶしてやると。
「だから政治家の娘と見合いをする。
婿に入って地盤をひき継ぐ」
淡々と語る口調に何の感情も感じられない。
「この関係も終了だ。
おめでとう、さゆり」
宗臣はにこやかに笑いながら、さゆりの額に口づけをした。
「就職祝い、何か贈るよ」
「あ、ありがとう」
放心状態で反射的にお礼を言う。
おめでとう。
さゆりの頭の中で言葉が回る。
なんについてのお祝いの言葉なのか、ちっともわからなかった。