夜のしめやかな願い

「昔から、あの男が政治家にさせたがっているのを、宗忠からでも聞いているだろ?」

3兄弟があの男と呼ぶ父親は、宗臣を政治界に、宗雅を経営者に、宗忠を医者にすると公言していた。

自分の父親をあの男と呼ぶぐらい反発しているのに、3兄弟は望まれる道を歩んでいる。

宗忠が言っていたことがある。

ならないように反発するのではなくて、なってから、踏みつぶしてやると。

「だから政治家の娘と見合いをする。
 婿に入って地盤をひき継ぐ」

淡々と語る口調に何の感情も感じられない。

「この関係も終了だ。
 おめでとう、さゆり」

宗臣はにこやかに笑いながら、さゆりの額に口づけをした。

「就職祝い、何か贈るよ」
「あ、ありがとう」

放心状態で反射的にお礼を言う。

おめでとう。

さゆりの頭の中で言葉が回る。

なんについてのお祝いの言葉なのか、ちっともわからなかった。
< 38 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop