夜のしめやかな願い

眼福だ。

ありたがや~と年寄りのように拝みたくなる。

正座がしびれるのに足を崩すと、その動きで壁に立てかけてある鏡に映る、自分の姿に気が付いた。

父の時は喪主が母だったが、今回はその時、母が来ていた喪服をさゆりは着ていた。

母は剣のある美人だった。

なぜ、あの父と結婚したのか不思議なほど。

さゆりは父親似だ。

少々ふくよかな体形に、ちまちました顔のパーツ。

小学生の時、子豚ってよくからかわれた。

鏡に映った姿はまさに子豚だ。

さゆりはがっくりときた。

宗臣が顔を向ける。

澄んだ眼差し。

「喉が渇いた」
「はい」

さゆりは立ち上がると、湯を火にかける。

< 4 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop