夜のしめやかな願い
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宗臣は通勤帰りの電車の中で、紺色の楽器ケースに視線をとめていた。
あの大きさからするとチェロだろう。
音大生らしき若い女性が満員電車の中、楽器が押されないように必死に守っている。
服装からして結婚式などで演奏のアルバイトをした帰りのようだ。
でなきゃ、命と同じぐらい大切な楽器を危険にさらす、こんな終電間際に乗らない。
多くの音大生は色々なアルバイトをしながら、学んでいるのを知っている。
援助しているさゆりもだ。
また駅に止まって、車内の密度が増したのに、宗臣の体が条件反射的に動いた。
楽器の横に立ち、壁になる。
女子大生の方はいくら潰れても知ったことではない。
顔を向けないし、視線も合わせないが、宗臣がしてくれることを彼女は察したらしい。
軽くうなずくように頭を下げた。
また駅について密度が増す。
こんなことになるなら、タクシーで帰るべきだった。
宗臣は今更に後悔する。