夜のしめやかな願い
「降ります!」
突然、女子大生は声を上げた。
宗臣は思わず舌打ちをしそうになる。
このすし詰めの中、降りるのか。
宗臣は悪態を胸の中で呟いてから、楽器ケースのストラップを手にした。
「失礼」
先頭に立って人をかきわけながら、ホームに降り立ち、後ろにいた女子大生にメールを手渡した。
「あ、ありがとうございました」
両親に大事に育てられている感じのする子だ。
恥ずかしがりながら、必死に感謝の気持ちを表そうとしている。
「いえ」
宗臣はため息をつきたかったが、外面用ににっこりと笑った。
「僕の彼女も楽器をやっているので。
大変さは良く聞いています。
気を付けて」
そういう彼女じゃないが、忘れずにさらりと釘を刺して、さっさと背を向けた。