夜のしめやかな願い
「恋人が音大生とは、さすがおぼっちゃま」
音大生とは一言も言った覚えがないが。
宗臣は少し眉をひそませた。
通過電車の轟音の中、二人はじっと互いを探り合う。
野田は風で乱れた髪を指で直した。
「省庁の女どもが盛んに噂しているが、代議員先生の娘とお見合いするって?
既に音大生と同棲しているって知ったら破談だな」
宗臣は表情一つ変えなかった。
なんと返すか。
一瞬、逡巡すると野田は愉快そうに笑った。
「おまえが動揺しているのを初めて見たよ」
意地悪く口元をゆがめている。