夜のしめやかな願い

「恋人が音大生とは、さすがおぼっちゃま」

音大生とは一言も言った覚えがないが。

宗臣は少し眉をひそませた。

通過電車の轟音の中、二人はじっと互いを探り合う。

野田は風で乱れた髪を指で直した。

「省庁の女どもが盛んに噂しているが、代議員先生の娘とお見合いするって?
 既に音大生と同棲しているって知ったら破談だな」

宗臣は表情一つ変えなかった。

なんと返すか。

一瞬、逡巡すると野田は愉快そうに笑った。

「おまえが動揺しているのを初めて見たよ」

意地悪く口元をゆがめている。


< 45 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop