夜のしめやかな願い
5.

     *

さゆりはぼんやりとしていた。

突然、もう来ない、と言われたかと思ったら。

突然、強制的に夜逃げのように引越しをさせられた。

そして一言“精進しろ”と言っていなくなった。

精進・・・。

一番苦手かも。

お気楽に過ごしてもいいじゃないか。

いや、生活を考えると、全然お気軽じゃないけど。

ぶつぶつと言いながら、楽譜をめくった。

就職した音楽教室の仕事は順調だ。

生徒も片手の数ちょっとつき、レッスンの合間に事務アルバイトをさせてもらい、おかげで何とか生活できている。

まあ、まったく問題がないかというと、そうでもないけど。

さゆりは重い溜息をついた。




< 48 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop