夜のしめやかな願い
5.
*
さゆりはぼんやりとしていた。
突然、もう来ない、と言われたかと思ったら。
突然、強制的に夜逃げのように引越しをさせられた。
そして一言“精進しろ”と言っていなくなった。
精進・・・。
一番苦手かも。
お気楽に過ごしてもいいじゃないか。
いや、生活を考えると、全然お気軽じゃないけど。
ぶつぶつと言いながら、楽譜をめくった。
就職した音楽教室の仕事は順調だ。
生徒も片手の数ちょっとつき、レッスンの合間に事務アルバイトをさせてもらい、おかげで何とか生活できている。
まあ、まったく問題がないかというと、そうでもないけど。
さゆりは重い溜息をついた。