夜のしめやかな願い
父が死んでから、ここまで、何もかも宗臣の手を貸りた。
母もさゆりも、あらゆる手続きに対して、無知だった。
生活することも。
残されたお金の中で、毎月、どの程度の金額で暮らせばいいのかさえ、見当がつかなかった。
アパートの契約だって一緒についてもらった。
お陰で、こうして何とか暮らしていける。
後一年で音大を卒業、大学院進学を目指していたんだけど・・・。
宗臣がくれた紅茶の茶葉を、ポットに入れる自分の指をなんとはなしに見た。
自分の感情が下降していく前に視線を外した。
紅茶の馥郁とした香りが立ち上がる。
それが心を慰めた。
「どうぞ」
着物の裾を払って座る。