夜のしめやかな願い
「4月から働くこととなりました、本条さゆりです。
どうぞよろしくお願い致します」
すっと頭を下げる。
長年培ってきた、お嬢様対応。
この必殺技をしておけば、間違いないのだ。
啓は何の反応も示さなかった。
改めて見てさゆりは狼ってより、豹だと思いを改めた。
しなやかな黒豹。
「啓、なんかあったら手伝ってやれよ」
「なんか、ね」
啓は薄く笑った。
そのまま背を向けて事務室を出て行った。
「愛想がない奴でごめんね。
根は悪くないから」
「はい」
さゆりは愛想よく返してから、事務仕事に戻る。