夜のしめやかな願い
「個人としてはあまり弾かないけど、結構、教えてほしいってリクエストがあるんだよ」
「大人のピアノ教室で?」
「そう。
教えるのに、納得いくまで弾きこんどかないと、無理だし」
「意外と、職人肌ですね」
「おうよ。
そこ座って、違和感あるところ、教えろ」
「いえいえ、私には無理です」
大きく手を振って遠慮したが、にらまれてしぶしぶと椅子に座った。
啓のピアノは好きだからいいんだけど。
「啓先生が弾くと、なんというか、明るくなりますね。
そう。
マリーアントワネットが獄中で、かつて自分が庭園で開いたお茶会を思い出しているような雰囲気です」
「・・・それって・・明るいか?」
「ほんわかした夢のような明るさでしょうか」
「意味わからん」
さゆりはそうかな、と首を傾げたが、それ以上の説明はしなかった。