夜のしめやかな願い
「違和感、ありませんよ。
そのままで、いいんじゃないですか」
「今、投げただろう、おまえ」
「人それぞれ、曲に抱くイメージは違いますから」
「いや、大局があるだろう」
「ん~、まあ、そうですね。
としたら、曲のもの悲しさがないでしょうか」
「だよな」
啓は自覚していたらしく、憂鬱そうな表情になって頬杖をついた。
「失恋の一つや二つをしてみたらどうです?」
ちょっとからかってみる。
「んなの、してるわ、とっくに」
「はい?」
頬杖をついているのに、声がくぐもって良く聞こえなかった。
「主題の繰り返しの出だし、3音なんて、心が引きちぎれて泣きたくなるはずなんですけど」
「悪かったな。
そこまで、さらす主義でなくて」
啓はぶすっと答えた。
さゆりは押し黙った。