愛の、愛の、愛の嵐
「なあ、ネエチャンや」


いきなり話し掛けられてアタシはどっきり。

やべえ聞こえた?

ルームミラーに目をやると、

こちらを覗き込んでいる運転手さんと目が合った。

なぜだかニヤケてる。キモ。


「あんたえらいこと急いでるようだけど、
 テストかなにか?」


セーフ、違うみたい。


「そうじゃないの。
 って言うか学校どころのさわぎじゃないの。
 アタシにとっては、
 人生の一大事なんです」


そういうと運転手さんは

ほへ~とおかしな息を吐いた。


「人生の一大事ときたか、
 そらあ急ぐわな。
 親御さんでも危篤とか?」


「ちがうけど」


「じゃあ兄弟か親戚とか?」


しつこいわねこのオジサン。

だまって運転してよね。

アタシはこれから無い知恵絞って

“運命の人”発見プラン

練らなくちゃいけないんだから。


「家族はみんなぴんぴんしてます。
 そうじゃなくって、
 んーもしかしたらそれ以上に
 大事なことかも。だからお願い、
 急いでよ」


そう言って会話を切ろうとするけど

運転手はしつこく食い下がってくる。


「ほんならいったい何事かね。
 気になるわー。
 よかったらおしえてくれんかね」


 うるさいな。


「人が聞いたらたぶん
 馬鹿みたいに思うと思う」


「思わない思わない」


「ホント、くだんないから」


「でもオネエチャンには一大事なんだろ」


「もちろんよ。
 いまこうしてる間にも
 あせって心臓破裂しそうよ」


 だから前見てしっかり飛ばせっ。


「気になるわー。
 教えてぇーな。
 だれにも言わないから」


「やだ」


「たのむわー、なら、
 ヒントちょうだい、ヒント」


ああ、もう! 

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