愛の、愛の、愛の嵐
「あれ、あいつ誰だっけ」


後ろで聞き覚えがあるような気のする女の声がした。

いやな予感がした。

無視だ。

アタシはかまわず走り続ける。


「オイ、ちょい待てよっ」


無視。

そしてアタシはついに彼に追いつく。

スピードをゆるめると、

彼の横に並ぶ。

荒い息を整え、

全力疾走と極度の緊張で

もうわけわかんないくらいに飛び跳ねる心臓を

片手で押さえながら、

そっと彼の横顔をうかがった。

ああっ! 

この衝撃をなんてあらわせばいいんだろう。

初めて間近でみる彼の姿に、

アタシはもはやこのまま死んでも悔いなし! 

ってほどの感動を覚えた。

死なないけど。

彼は歩きながら鞄を探っていた。

長めの前髪がやわらかく揺れた。

中から封筒を取り出すと

ちょっと眉をしかめ、視線を落とす。


 ・・・はぁ~。


このまま時が止まればいいのに。

そう思った。

でもいつまでもうっとり

よだれ垂らしながら伴走してる場合じゃない。

行くのよ、マミコ。

勇気振り絞って、

声掛けろっ。

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