愛の、愛の、愛の嵐
「ほれ、食べんちゃい」


「・・・」


のばした手の平にぽとん、

それはアタシの嫌いなカンロ飴だった。


『次は△△町、△△町です』


スピーカーから案内が流れ、

バスが軋みながら停車した。

にこにことアタシに笑いかけていたお婆ちゃんは

ここで降りなきゃいけないことを忘れていたようで、

あわててぴょこんと席から降りる。

その腰はほぼ直角に曲がっていた。

小さな体で杖をつきつき、

出口へと向かって行く。


「あ・・・あのっ」


声を掛けるとお婆ちゃんが振り返った。


「あの・・・これ、ありがとっ」


そう言うとお婆ちゃんは

またほっこりと笑顔になり、


「へえへえ、
 気ぃーつけて行きんさいね」


と、にこにこにこにこ降りて行った。

バスがまたぶろろろろっと走り出す。

アタシは体をひねって窓の外を見る。

お婆ちゃんが

アタシに手を振ってくれていた。

アタシも振り返す。

その姿がぐんぐん小さくなっていく。

お婆ちゃんは

姿が見えなくなるまでずうっと手を振っていた。

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