素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~
10月3日①

離婚して半年後、夏の写真展で大賞をとった私には、様々な仕事のオファーが舞い込むようになり着実に写真家としての足元が固まってきたある日、忘れ物を届けるように懐かしい人が訪ねてきた。
フレド・ガードナー、ランスの実の弟で共同経営者である彼はガードナー家で私をとても気にかけてくれていた優しい人だった。
どこから情報を得たのか、個展を開いていたギャラリーの方に現れたフレドは切羽詰まった表情していて、私はそんな彼をそのまま応接室に案内し、話を聞くことにした。

「フレド……どうしたの?あなたのそんな顔初めて見るわ」

「……メリー……僕は……僕達はもうどうすればいいかわからない……」

「一体何が………」

「兄貴が運転中に事故に遭った……」

「なんですって!?それで、無事なの?」

「体は無事だ……命に別状もない……だが、目をやられた……今、何も見えてない……」

「まぁ………」

とりあえず一安心はしたが、フレドが何故それを私に言いに来たのか、その心を図りかねていた。
大体ランスをどう思っていたかを一番知っているのはフレドの筈だ。
酷い言い方だが、事故に遇って多少はざまぁみろと思っているのも確かなのだ。

「命が無事で良かったわ……でもフレド、それを私に言いに来るのは何か違うんじゃないかしら?」

「わかってる……だが、聞いて欲しい。実は事務所の金を秘書のオリヴィアに全て持ち逃げされた」

「は!?秘書?!秘書ってランスの愛人の?!」

オリヴィア・ソーン、一度パーティーで会った時、妻であった私に堂々と正面切って愛人宣言した、とても派手な女。
当然離婚後は彼女と結婚すると思っていた。

「愛人?私は聞いてない…まぁ一緒にいるのは良く見かけたが。……兄貴が事故に遭ってすぐ、失明したのがわかるとそのまま金を持って雲隠れした……」

「はぁ、で、私になんの関係が?」

「関係はあるんだ……実は、慰謝料がもう払えない……」

「え?!」

「何もかもをなくしたんだ……兄貴がまた仕事に復帰してくれればなんとかなるんだが、今もう酷い状態で」

「目は……もう一生見えないの?」

「いや、手術すれば50%の確率で治るんだ……だけど、本人がもう、生きる意欲をなくしている……そのままでいいと言うんだ」

フレドは俯いて肩を震わせている。
ガードナー兄弟は彼らの他には一人も身内がいない。
文字通りたった二人の兄弟で、その兄が今悲しみの淵にあるのだ、フレドの気持ちは痛いほど良くわかる。
だが、やはりここに来るのは間違っている。

「フレド、どうしてここに来たの?私に何かして欲しいなら無駄よ。ランスの為になんて私何もしたくない」

「メリー……聞いて。兄貴に手術を受けるように君から言ってくれ、お願いだ。君だって慰謝料がないと困るだろ?」

「彼が私の言うことを聞くと思うの?会話なんてなかったのに?そりゃあ、慰謝料がないと困るわよ、まだ写真を仕事としていくには心もとないし……新しい機材も買ってしまったし……」

そう言い始めて、今後の慰謝料を見越して買い倒した機材やフィルムの数々があることを思い出し顔が青くなっていった。
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