素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~
10月3日②

慰謝料がないと支払いが出来ない……。

私は項垂れるフレドを目の前にして、珍しくいろんなものを天秤に掛けて考え始めた。

1、写真家としての信用を今失う訳にはいかない、しかし、支払いが滞れば確実に信用を失い、仕事の質にも影響するだろう。

2、ランスには出来るだけ会いたくはないし、あの嫌な思い出のある家には近寄りたくはない。だが、ランスに頑張って貰わなくては慰謝料が入らない。

慰謝料が入らなければ、支払いが滞る、支払いが滞れば、信用を失い、写真家としての仕事が……

ああもう!
これはもともと慰謝料を当てにしていた私の失態だわ!
だけど、フレドの言うように手術を勧めた所で、ランスが聞く筈はない。
これは断言出来る、私達にそんな信頼関係など全くと言っていいほどない。

「ねぇ、あなたが手術をするように言ってくれない?弟の言うことなら聞くわよ。身内なんだもの」

「……何度も言ってるよ……でも何も聞いてもらえない。身内じゃ駄目なんじゃないかと思うんだ。他人になら言えることだってあるだろ?」

「まぁ……そうね、そういうこともあるかも」

「だから、メリーにお願いしてるんだ」

いや、だから、こんな微妙な立場の他人に何をどうしろと!?

「無理でしょ、カウンセラーとかにお願いすれば?」

「そんな他人は嫌だ!」

「……嫌って…………カウンセラーで駄目ならお手上げね」

何故かフレドはソファーから立ち上り、私の前に片膝をついて手を取った。

「僕は知ってるんだよメリー。君はハイスクール時代、演劇部にいたね?」

「えっ?ええ、まぁ、いたわよ」

「じゃあ、カウンセラー役、出来るよね!」

………何言ってるんだこの男!!

「いや、それは……」

「大丈夫だよ、兄貴は今、目が見えない。声さえ気を付ければ絶対にバレない!」

なるほど、それもそうか………
いや、まずい!この男もやり手の弁護士だった!
このままではきっと押しきられてしまう!

「無理だってば!芝居って言っても素人みたいなものだし」

「そんな筈はない!確か州の演劇祭で新人賞を受賞しているよね?調べたんだよ」

意気揚々と畳み掛けてくるフレドに、もう返す言葉は見つからなかった。
こうなっては、何を言っても的確に返されることはわかっていた。
フレドはそういったタイプの弁護士で、一旦心の隙を見つけると、それをこれでもかと抉ってくる。

私も隙をつかれたのだ。
目が見えなければ、他人として騙せるのではないか?と。
一瞬でも考えてしまった為に。

「………オーケー、あなたの考えを聞かせてちょうだい」

「良かった!やる気になってくれて」

来たときの鬱気味の表情から一転、晴れやかな笑顔でフレドは私の手を握りブンブンと振った。
これは最初からこういう計画だったのだ。
ようやく今になってこの男の策略に嵌まったと気付いたのに、もう身動きはとれないでいた。

「やる気、ではないわよ。仕方なくよ、慰謝料大事だもの!」

「そうだね!それじゃあこれからの計画について…………」

フレドと私は狭い応接室で膝を付き合わせて悪巧みを始めた。
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