素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~
10月4日①
『私の名前はメグ・ファラン、メイド紹介所から派遣された22歳のカウンセラー兼、新米メイドです。
フレド・ガードナー様からのたってのお願いで、ランス・ガードナー様のお宅でメイドの仕事をすることになりました。
朝は6時から夜は8時まで、朝、昼、夕の食事のお世話、病院の付き添いというかなりブラック臭が漂う内容ですが、これもお金のため、頑張らなければなりません。
ランス様は自動車事故で、今は目が見えない状態ですが、手術をすればきっと見えるようになる筈です。
なんとしても私、メグ・ファランがランス様を説得し手術を受けるように仕向けなくては!
頑張れメグ!
慰謝料を手にして、明るい未来を!』
フレドと打ち合わせした通りの人物像と筋書きをもう一度復唱し、3年間過ごしたガードナー家に私は再び舞い戻った。
いや!ちがうちがう!
メグは初めてここに来るのよ!
もっと新鮮な気持ちで、失敗しないようにとドキドキしながらベルを鳴らすの!
若干妄想の酷くなった私は、気を取り直してガードナー家のベルを鳴らした。
しかし、何度鳴らしても返事はない。
扉を大きく叩いても誰の声もしなかった。
今日からメイドが来ることは、フレドの方から連絡がいっていると思うのだけど?
忘れてまだ寝ているのかしら?
ここからだとすぐ裏手の庭に抜けられるけど、いきなりメイドがそんな真似をするのはどうなのだろうか。
暫く考えて、私は思いきって庭に行ってみることにした。
半年経った庭は、荒れ果てていた。
あの頃、私が手入れしていたバラも、ユリもパンジーもダリアもラベンダーもクレマチスも……もう見る影もなく枯れてしまっていた。
茶色のアーチをくぐり、茶色の庭を歩くと、中庭の白い小さなガゼボ(あずまや)のベンチにぼうっと座る人影が見えた。
陰気なその人影は、目を凝らして良く見ないと幽霊だと勘違いしてしまうほど身動きひとつしなかった。
ランス………。
半年ぶりに見る彼の背中はとても小さく見え、あの頃スッと延びていた背も丸まってしまっている。
私は用意していた声をぼかすためのマスクを付けると、ゆっくりランスに近付いて行く。
目が見えない人は、耳が鋭敏になるというけど、砂利を踏む微かな音に彼は反応して顔を上げた。
包帯を巻いた目を音のする方に向けて、見えていない筈の私を見てランスは言った。
「メリー!?」
「っ!……………」
見えていないんじゃないの………?
喉の奥に何かが詰まったように不快になって、緊張の為に背中に一筋汗が流れる。
「そんなはず……ないか……」
暫く続いた沈黙を破り、ランスが項垂れて言うと、喉のつかえが一気に取れて、出せなかった声が出るようになっていた。
私は地声をいつもより高めに設定し、少し緊張した声で言う。
「……おはようございます、ランス様?でいらっしゃいますか?」
「………誰?」
項垂れたまま、なんの興味も無さそうにランスが言う。
「フレド様からの依頼でメイド紹介所から参りました!メグ・ファランと申します。今日からランス様の身の回りのお世話を致します!」
ハキハキと大きい声で努めて明るく、私はメグ・ファランになりきった。
『私の名前はメグ・ファラン、メイド紹介所から派遣された22歳のカウンセラー兼、新米メイドです。
フレド・ガードナー様からのたってのお願いで、ランス・ガードナー様のお宅でメイドの仕事をすることになりました。
朝は6時から夜は8時まで、朝、昼、夕の食事のお世話、病院の付き添いというかなりブラック臭が漂う内容ですが、これもお金のため、頑張らなければなりません。
ランス様は自動車事故で、今は目が見えない状態ですが、手術をすればきっと見えるようになる筈です。
なんとしても私、メグ・ファランがランス様を説得し手術を受けるように仕向けなくては!
頑張れメグ!
慰謝料を手にして、明るい未来を!』
フレドと打ち合わせした通りの人物像と筋書きをもう一度復唱し、3年間過ごしたガードナー家に私は再び舞い戻った。
いや!ちがうちがう!
メグは初めてここに来るのよ!
もっと新鮮な気持ちで、失敗しないようにとドキドキしながらベルを鳴らすの!
若干妄想の酷くなった私は、気を取り直してガードナー家のベルを鳴らした。
しかし、何度鳴らしても返事はない。
扉を大きく叩いても誰の声もしなかった。
今日からメイドが来ることは、フレドの方から連絡がいっていると思うのだけど?
忘れてまだ寝ているのかしら?
ここからだとすぐ裏手の庭に抜けられるけど、いきなりメイドがそんな真似をするのはどうなのだろうか。
暫く考えて、私は思いきって庭に行ってみることにした。
半年経った庭は、荒れ果てていた。
あの頃、私が手入れしていたバラも、ユリもパンジーもダリアもラベンダーもクレマチスも……もう見る影もなく枯れてしまっていた。
茶色のアーチをくぐり、茶色の庭を歩くと、中庭の白い小さなガゼボ(あずまや)のベンチにぼうっと座る人影が見えた。
陰気なその人影は、目を凝らして良く見ないと幽霊だと勘違いしてしまうほど身動きひとつしなかった。
ランス………。
半年ぶりに見る彼の背中はとても小さく見え、あの頃スッと延びていた背も丸まってしまっている。
私は用意していた声をぼかすためのマスクを付けると、ゆっくりランスに近付いて行く。
目が見えない人は、耳が鋭敏になるというけど、砂利を踏む微かな音に彼は反応して顔を上げた。
包帯を巻いた目を音のする方に向けて、見えていない筈の私を見てランスは言った。
「メリー!?」
「っ!……………」
見えていないんじゃないの………?
喉の奥に何かが詰まったように不快になって、緊張の為に背中に一筋汗が流れる。
「そんなはず……ないか……」
暫く続いた沈黙を破り、ランスが項垂れて言うと、喉のつかえが一気に取れて、出せなかった声が出るようになっていた。
私は地声をいつもより高めに設定し、少し緊張した声で言う。
「……おはようございます、ランス様?でいらっしゃいますか?」
「………誰?」
項垂れたまま、なんの興味も無さそうにランスが言う。
「フレド様からの依頼でメイド紹介所から参りました!メグ・ファランと申します。今日からランス様の身の回りのお世話を致します!」
ハキハキと大きい声で努めて明るく、私はメグ・ファランになりきった。