素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~
10月4日②

「必要ない。帰ってくれ」

「朝食は御召し上がりになりましたか?……まだのようでしたら軽く何か作りますので少しお待ちくださいね」

私がそのまま裏口からキッチンに入ろうとすると、ランスが大声で恫喝した。

「迷惑だと言っているだろう!分からないのか!それとも何か目的でもあるのか?金ならないぞ……もう一銭もな……」

そんなこと、とっくに知ってるわ!
心の中で大声で反論すると、自分の感情を精一杯コントロールし、優しく諭すように言った。

「私はフレド様から御給金を頂いておりますので、ランス様から貰おう等とは考えてません。でも、ここで働かせて貰えなければ、御給金は頂けません。それは困るのです。私も生活がかかっていますので!」

「………フレドめ…………」

「それにフレド様もランス様にいつまでも構ってはいられませんから。彼には彼のお仕事があります」

これは嫌味のつもりで言ったのだけど、ランスはそうはとらず、淡々と切り返した。

「そうだろう。そうしてもらわなければ困る」

憤る様子を楽しみにしていた私は、興を削がれてつい舌打ちをしてしまった。

「なんだ?予想していたのと答えが違ったか?」

舌打ちを聞かれていたのか、誰もいない宙を見ていたランスは嘲るように顔をこちらを向けた。

「ふふっ……案外元気じゃないですか!その調子で行きましょう!さぁ、まずは朝食から!食べないと何も始まりませんからね」

どうやら、予想していたのと答えが違ったのは彼の方だったらしい。

「……いや……腹は、空いてない……」

メリーじゃなくてメグだと思うと、私の気もだんだんと大きくなり、以前言えなかった言葉がどんどん口をついて出てくる。

「空いていなくても食べて頂かないといけません。何をお悩みかは私にはわかりませんが、私の仕事の邪魔をしないで貰いたいんですっ!」

「……邪魔って……お、おい」

呆然とするランスの手を取り強引に立たせ、落ちていた杖を右手に持たせた。

「なんて乱暴な娘だ!……いや?娘じゃないのかもな。声からはわからないが案外いい年なのか?」

んなっ!?なんて口の悪い!!
こんな意地の悪い人だったとは!
あんまり話したことがなかったから、わからなかったわよ!
せせら笑うランスをどうにかやり込めてやりたいけど、それはまぁ……我慢するわ。
今はね!

「なんとでもおっしゃって下さい。どうせ、結婚に失敗した女ですからね!怖いものもありませんわ!」

またせせら笑うんでしょう?
そう思った私はランスからの攻撃(口撃)に備えたが、その攻撃は不発だった。

「なんだ………君もか……そうか……それは辛かったな……」

そのあまりにも悲痛な様子に、私は一瞬息を飲み、もしかして彼も離婚は結構堪えたのではないかと(金銭的に)変に勘ぐってしまった。
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