素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~
10月4日③

少し元気のなくなったランスを無理矢理引摺り、庭の見えるサンルームに押し込むと、私は朝食の準備に取りかかった。

キッチンの冷蔵庫には、フレドが補充したのだろう食材がたんまりと入っていて、3年間暇があるのに任せて通い続けた料理教室の成果を、存分に発揮することが出来た。

「こんなものかな!」

すぐに出来る簡単なものだけだったが、栄養のバランスを重視したメニューになっていると思う。
食事をトレイに載せサンルームに向かうと、見えない庭をじっと見ているようなランスが目に入った。
さっきもそうだったけど、どうしてそんなに庭にこだわるのか、庭にいたことなんてなかったくせにと、私は足を止めて彼を見た。

「お庭が好きですか?」

突然の声に肩をビクッと震わせて、こちらに顔を向けるランス。

「……別に……好きじゃないよ」

「そうですか。あ、朝食、出来ましたよ!でも、もう昼になってしまいますね。兼用でいいですか?」

彼の前にトレイを置き、ナプキンを膝にかけ、ナイフとフォークに両手を誘導した時、私は大変困ったことに気付いてしまった。
そう、ランスは一人じゃ食べられない……、見えないんだから当たり前よね。

メグはメイド、そう!メグはメイドです!

やりますとも!

「私が食べさせた方がいいですね!何から食べますか?」

「自分で出来る!!」

馬鹿にするなと言うように、ランスは左手のフォークで、何かわからない目の前のものを刺した。
そこにはスープがあり、なんの手応えもないそれを、悔しそうに何度も何度も彼は突き刺している。
私はその手に自分の手を重ねると、そっとオムレツの方に寄せ、今度は彼の右手に自分の右手を重ねオムレツを切る。
当然私の体は彼を包み込むようにすぐ後ろにあり、あまり嗅いだことのないランスの匂いになんだか不思議な気持ちで一杯になっていた。

「……はい!どうぞ」

我に返って体を離し、ランスの隣へ座り直すとフォークで刺したオムレツを彼の口に誘導した。

目の包帯のせいで全く表情がわからない彼は、オムレツの匂いを嗅いでから勢いよく口に放り込んだ。

「………旨い………」

「………!あ、ありがとうございます……」

とても、嬉しかった。
料理を褒められることがこんなにうれしいなんて思ってなかったから、つい張り詰めていた気持ちが緩んでしまい笑顔になった。
笑顔がいけないわけじゃない、出来るだけランスの前で笑顔になりたくなかった。
これは私の意地のようなものだ。
ま、笑顔になったところで見られはしないから安心だけど!

「何笑ってるんだ?」

見えてんの?!

「………目、見えるんですか?」

「見えない……君は今の言葉で笑ったことを肯定したぞ……案外バカなんだな」

ああーーー!!騙された!
だから弁護士なんて嫌いなのよっ!

「バカという方がバカなんです!」

「ガキか」

くーやーしーいーっ!

隣でイライラしている私とは正反対に、ランスはそれはもう楽しそうに笑っている。
おや、これはこれで成功なのではないでしょうか?
この調子で手術も受けてくれるとありがたいんですけどね。
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