素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~
10月7日①
それから3日経った頃には、彼は私の食事の配置を覚えどこに何があるのかを完璧に把握し、まるで見えているかのように普通に食事をした。
一度普段と違う配置をしたときには、一瞬驚き、その後何が楽しいのかわからなかったが、愉快そうにこちらに顔を向けて笑う。
そして、ことあるごとに私を呼び、つまらないことを言いつけてはあたふたする私を見て楽しむ、それが彼の日課になっていた。
ああもう!メグ、メグと本当に鬱陶しい。
まぁ確かに、何もすることがなく家に二人しかいないのだからしょうがないと言えばそうなんだけど。
正直、こんなに懐かれるとは思っていなかった。
バカだと思って気を許したのだろうか?
何の下心もないとわかったから安心したとか?
ふふ、私ほど下心がある女はいないけどね。
まぁいいわ、そういう感じがいいなら、とことんそういう感じでいきましょう!
地に近いから私もやり易いしね。
病院に診察に行く日だった今日、私は家の横のガレージへ車を確認しに行った。
もちろん私が運転して行くのだけど、ランスの車は事故で大破していて、半年前まで私が使っていた車しかない。
乗りなれた車だったが、どうしてもあの頃を思い出して気が重くなる。
ガレージのシャッターを全開にし、少し埃の被った車体を雑巾で軽く拭いていると、後ろから声をかけられた。
「その車を使うのか?」
ガレージの柱にもたれ掛かり、ぼんやりと立つランスが小さく言った。
「この車しかないので……いけませんか?」
「その車は……妻のだ」
「奥様のだから……嫌ですか?」
「……嫌だ……」
そうでしょうね……。
でも面と向かって言われるのって結構キツいわ。
好かれているとは思わなかったけど、そんなに嫌われていたとは……。
「すみません。我慢してください。きちんと掃除はしますので……」
「……………わかったよ……」
そのまま踵を返し杖で回りを確かめながら、ランスは立ち去った。
辿々しく歩き去っていく背中を眺めながら、あの3年間は彼にとっても私にとっても、いらない出来事だったんだと思わざるをえなかった。
誰も幸せにならなかった。
やはりあの結婚に意味はなかった。
そうして、私はメグとして車の掃除に取りかかる。
エンジンをかけ窓を下ろし、外の空気をいれながら、うっすらと埃を被ったシートを拭く。
何の匂いもしなかったけど、嗅覚が鋭くなってるランスは何かを思うかもしれない、そう思うと自然とシートを拭く手に力が入った。
あらかた掃除を終え、車を正面に回しランスを呼びに玄関の中へ入ると、彼は2階へ上がる階段の一番下に座り、じっとこちらを伺っていた。
「なんです!?そんなところに座ってると幽霊みたいですよ!」
「幽霊……か。そうかもな」
「……ランス様、感傷に浸っている暇はありません!さぁ病院の予約時間が迫ってます。行きますよっ!」
「感傷にも浸らせてくれないのか?随分冷たい女だな君は」
いつもと同じように悪態をつき、口元は楽しそうに笑っている。
何がそんなに楽しいのかと意味がわからず黙っていると、ランスがスッと左手を出し言った。
「手を引いてくれないか?車まで」
「……は、はい」
ゆっくりと手を引くと、彼はとても従順に私の後ろを付いてくる。
車までのほんの数メートルが何十メートルにも感じたのは、彼の手がとても暖かかったからじゃない。
絶対にそうじゃない。
と、何度も心の中で繰り返していた。
それから3日経った頃には、彼は私の食事の配置を覚えどこに何があるのかを完璧に把握し、まるで見えているかのように普通に食事をした。
一度普段と違う配置をしたときには、一瞬驚き、その後何が楽しいのかわからなかったが、愉快そうにこちらに顔を向けて笑う。
そして、ことあるごとに私を呼び、つまらないことを言いつけてはあたふたする私を見て楽しむ、それが彼の日課になっていた。
ああもう!メグ、メグと本当に鬱陶しい。
まぁ確かに、何もすることがなく家に二人しかいないのだからしょうがないと言えばそうなんだけど。
正直、こんなに懐かれるとは思っていなかった。
バカだと思って気を許したのだろうか?
何の下心もないとわかったから安心したとか?
ふふ、私ほど下心がある女はいないけどね。
まぁいいわ、そういう感じがいいなら、とことんそういう感じでいきましょう!
地に近いから私もやり易いしね。
病院に診察に行く日だった今日、私は家の横のガレージへ車を確認しに行った。
もちろん私が運転して行くのだけど、ランスの車は事故で大破していて、半年前まで私が使っていた車しかない。
乗りなれた車だったが、どうしてもあの頃を思い出して気が重くなる。
ガレージのシャッターを全開にし、少し埃の被った車体を雑巾で軽く拭いていると、後ろから声をかけられた。
「その車を使うのか?」
ガレージの柱にもたれ掛かり、ぼんやりと立つランスが小さく言った。
「この車しかないので……いけませんか?」
「その車は……妻のだ」
「奥様のだから……嫌ですか?」
「……嫌だ……」
そうでしょうね……。
でも面と向かって言われるのって結構キツいわ。
好かれているとは思わなかったけど、そんなに嫌われていたとは……。
「すみません。我慢してください。きちんと掃除はしますので……」
「……………わかったよ……」
そのまま踵を返し杖で回りを確かめながら、ランスは立ち去った。
辿々しく歩き去っていく背中を眺めながら、あの3年間は彼にとっても私にとっても、いらない出来事だったんだと思わざるをえなかった。
誰も幸せにならなかった。
やはりあの結婚に意味はなかった。
そうして、私はメグとして車の掃除に取りかかる。
エンジンをかけ窓を下ろし、外の空気をいれながら、うっすらと埃を被ったシートを拭く。
何の匂いもしなかったけど、嗅覚が鋭くなってるランスは何かを思うかもしれない、そう思うと自然とシートを拭く手に力が入った。
あらかた掃除を終え、車を正面に回しランスを呼びに玄関の中へ入ると、彼は2階へ上がる階段の一番下に座り、じっとこちらを伺っていた。
「なんです!?そんなところに座ってると幽霊みたいですよ!」
「幽霊……か。そうかもな」
「……ランス様、感傷に浸っている暇はありません!さぁ病院の予約時間が迫ってます。行きますよっ!」
「感傷にも浸らせてくれないのか?随分冷たい女だな君は」
いつもと同じように悪態をつき、口元は楽しそうに笑っている。
何がそんなに楽しいのかと意味がわからず黙っていると、ランスがスッと左手を出し言った。
「手を引いてくれないか?車まで」
「……は、はい」
ゆっくりと手を引くと、彼はとても従順に私の後ろを付いてくる。
車までのほんの数メートルが何十メートルにも感じたのは、彼の手がとても暖かかったからじゃない。
絶対にそうじゃない。
と、何度も心の中で繰り返していた。