素敵な協議離婚~あなたが恋するメイドの私~
10月7日②
「良くも悪くもありませんね」
診察を終えた医師が、手術に踏み切れないランスにお手上げだと言うように告げた。
「状態はずっと変わりませんよ。手術をしないとね。見えるようになるというのに何故迷うのですか?」
「確実じゃないだろう?」
「50%の確率ですが、実際はもっと成功率は高いですよ」
「………………」
黙ってしまったランスから目をそらし、医師は私の方を見て言った。
「奥様からも手術を奨めてもらえませんか?」
「おっ?!奥様ではありません!ただのメイドです!」
ビックリしたわ……。
何で突然こちらに振ってくるのよっ!
「あ、それは失礼。診察室に入っているのでてっきり……。ガードナーさんが誰かと一緒に診察室に入ることがなかったもので……」
医師の言葉にランスは不満を露にして、声を荒らげた。
「そんなことはどうでもいい!……オレは手術はしない、このままでいいんだ。もう何も見たくはない!」
「ランス様!?」
明らかに様子がおかしくなった彼に私は驚き、落ち着かせようと肩を抱いた。
咄嗟にしてしまったことが恥ずかしくなり、慌てて体を離そうとするのを今度はランスが腕を引いて止めた。
「少し興奮されたようですね。隣の病室が空いてますから、少し休んでいかれるといい。体の方もまだ万全ではないでしょう?」
「ありがとう……そうさせてもらう」
看護師の案内で私達は別室に移動し、精神安定剤を処方され、幾分か落ち着いたランスはベッドに横になった。
「悪い……変なところを見せた……」
力なく喋るランスにいつもの自信過剰な様子は全くない。
よっぽど見せたくない姿だったんだろう。
「構いませんよ。どんどん見せて行きましょうよ。情けないランス様を」
「情けない、オレ?」
「そうです、完璧な人間なんていませんから。誰だって情けない姿があります。それを関係のない人間に見せることで心が軽くなるならいいじゃないですか!ランス様の情けない姿を、全然関係のない私が見てあげます」
包帯の奥でその目が開いた気がした。
いや、多分気のせいなんだろうけど、こちらを向く彼の顔があまりにも真剣でそう思ったのかもしれない。
「メグ」
「なんです?」
「手を…………繋いで……」
弱い声。ほんとに情けない姿。
これを憐れむのは私の特権だろう。
そして、見下して、蔑んで、嘲り笑う。
そう望んでいたのに、まるで違う感情が私の心を支配していた。
「はい、いいですよ」
シーツの中で私の手を強く握り返す彼は、小さく震えていて同じように強く握り返すと、だんだんとそれは収まっていった。
一体何に怯えているのか、何を見たくないのか、寝息をたて始めた彼の寝顔を見ながら私は考えてもわからないことを漠然と考えていた。
「良くも悪くもありませんね」
診察を終えた医師が、手術に踏み切れないランスにお手上げだと言うように告げた。
「状態はずっと変わりませんよ。手術をしないとね。見えるようになるというのに何故迷うのですか?」
「確実じゃないだろう?」
「50%の確率ですが、実際はもっと成功率は高いですよ」
「………………」
黙ってしまったランスから目をそらし、医師は私の方を見て言った。
「奥様からも手術を奨めてもらえませんか?」
「おっ?!奥様ではありません!ただのメイドです!」
ビックリしたわ……。
何で突然こちらに振ってくるのよっ!
「あ、それは失礼。診察室に入っているのでてっきり……。ガードナーさんが誰かと一緒に診察室に入ることがなかったもので……」
医師の言葉にランスは不満を露にして、声を荒らげた。
「そんなことはどうでもいい!……オレは手術はしない、このままでいいんだ。もう何も見たくはない!」
「ランス様!?」
明らかに様子がおかしくなった彼に私は驚き、落ち着かせようと肩を抱いた。
咄嗟にしてしまったことが恥ずかしくなり、慌てて体を離そうとするのを今度はランスが腕を引いて止めた。
「少し興奮されたようですね。隣の病室が空いてますから、少し休んでいかれるといい。体の方もまだ万全ではないでしょう?」
「ありがとう……そうさせてもらう」
看護師の案内で私達は別室に移動し、精神安定剤を処方され、幾分か落ち着いたランスはベッドに横になった。
「悪い……変なところを見せた……」
力なく喋るランスにいつもの自信過剰な様子は全くない。
よっぽど見せたくない姿だったんだろう。
「構いませんよ。どんどん見せて行きましょうよ。情けないランス様を」
「情けない、オレ?」
「そうです、完璧な人間なんていませんから。誰だって情けない姿があります。それを関係のない人間に見せることで心が軽くなるならいいじゃないですか!ランス様の情けない姿を、全然関係のない私が見てあげます」
包帯の奥でその目が開いた気がした。
いや、多分気のせいなんだろうけど、こちらを向く彼の顔があまりにも真剣でそう思ったのかもしれない。
「メグ」
「なんです?」
「手を…………繋いで……」
弱い声。ほんとに情けない姿。
これを憐れむのは私の特権だろう。
そして、見下して、蔑んで、嘲り笑う。
そう望んでいたのに、まるで違う感情が私の心を支配していた。
「はい、いいですよ」
シーツの中で私の手を強く握り返す彼は、小さく震えていて同じように強く握り返すと、だんだんとそれは収まっていった。
一体何に怯えているのか、何を見たくないのか、寝息をたて始めた彼の寝顔を見ながら私は考えてもわからないことを漠然と考えていた。