俺のまさかの溺愛狂想曲
結菜は、持っていた本をバサッと
落としてしまった。
気がつくと本棚の成人誌の回りは
男性ばかりで、迷惑そうにしている。
・・・でも
・・・でも震える手は止まらない。
拾おうとするが掴めない。
近くにいた女の子が気がついて、
「パパ?、パ、パパァ、」
彼も結菜にすぐ気がついた。
20代後半ぐらいの父親は結菜に
「どうしました。大丈夫ですか?
救急車呼び ますか?」
結菜を心配しながらかがみ込んで
聞いてきた。
「い、い、い、」
言葉にならず声はふるえるばかりだ!
脈を取り目を指でずらして開け
うんうんと頷き、家族の方は
いますか?
と聞いてきたので
赤い携帯をポケットから取り出し
何回も落としながら震える手で
電話帳の欄を押しながら、
でも両手で握りながらも上手く
スクロール出来ない。
ふるえる手だから、携帯もガタガタ
と揺れてしまう。
心配そうな彼が
「僕がやります。いいですか?」
「お、お…願いし…ます。」
吉乃に電話してもらった。
吉乃の顔しか浮かばなかった。
その間も彼はそばで、
椅子を借りたり
色々と世話をやいてくれた。
御礼を言ったが、こんな時でも
やさしくしてくれる人はいるんだと
心は少し救われた。
30分して吉乃はワインカラーの
可愛ら‥しい経に乗ってやって来た。
吉乃は彼に御礼を言って吉乃の
名刺を渡していた。
真面目そうな彼は銀縁メガネをかけて
すらりとしていた。
黒のニットを着ていてジーンズを、
はいてて、時々柔らかそうな笑顔を
結菜に見せてくれた。
吉乃をみると、彼は安心したように、
女の子と、お弁当と飲み物を買って
「お大事に。」そう一言声をかけて
コンビニを出て行った。
結菜はペコリと頭を下げて
「有り難う御座いました。」
と言うのが精一杯だった。
だいぶ時間が過ぎていたので、
最初より落ち着いてきた。
吉乃には独りで行動起こしてどう
するとキツく叱られたが、私の耳に
は吉乃のお説教もあまり届か
なかった。
結婚していないけど婚約者には変
わりない証拠を集めて慰謝料貰う?
それともぶん殴ってスッキリする?
それとも何も無かった事にする?
最後の言葉に目が覚めた。
結菜の結論は、確かめたい!
吉乃は…
「今はつらいでしょう、時間置こう。
心理的ストレスだろうって言わ
れたよ。
無理しちゃ駄目ダッテバ。」
結菜は首を横に振った。たとえ、
遊び心だったとしても許せる程
大きな器は持っていない。
「彼を嫌いになる理由が欲しい。
彼を恨むほど嫌になる理由が
欲しい。こんな事されても
まだ好きなの、
彼を嫌う決定的な
理由が欲しい。」
結菜は止める吉乃を振り切って夏華
のマンションに入っていった。
吉乃も乗り掛かった船だと意を決し
ついて行く。