【短】1000年の誓い
「賀上くんには、もっと相応しい人がいると思うの!」
そんなことを言われても、俺の心は揺るがない。
「ごめん。悪いけど、俺には先パイしかいないから…」
何度こんなやり取りを繰り返しただろうか。
もう、流石にげんなりとしていたら、偶然にも1人で廊下を歩いている先パイを見付けた。
「せ…」
呼び止めようとして、俺はその先を止めた。
何故なら、後ろから先パイを呼び止めたのが、多分先パイの同級生の男子だったから。
先パイは、俺には見せたこともないような顔で、その先パイと談笑していて、全身の血が逆流していくのをどうしても我慢できなかった。
くるりと、その場から踵を返して…俺は自分の教室に戻る。
先パイがモテることは、分かっていたはずなのに…。
女子からのことが多いことにばかり気を取られていて、肝心の男子からのアプローチのことを失念していた。
ぎゅうっと鞄を握り締めて、メラメラと燃える嫉妬心を堪える。
こんなんじゃダメだ。
もっと器の大きな大人の男にならないと…。
そう、呪文のように唱える。
と、そこへ見知らぬ女子が入ってきた。
「賀上くん、お願いがあるの!私と1日でもいいから、付き合ってくれませんか?」
先パイには劣るけれど、なんとなく髪が綺麗だなと一瞬思った…でも…。
「ダメ。いや…だって。俺キミのこと知らないし…」
いきなり初対面でなんなんだと、そういう視線を投げて断ったのに、その子は怯むどころかもっと俺との距離を縮めて来ようとする。
「池上先パイとお付き合いしてることは知ってるし、別れてなんて言わない…。ただ、1日でいいから…」
「だから、なんで俺なの?キミみたいな子なら、他に相手してくれるヤツいっぱいいるだろ?」
俺を見上げてそう言ってくる彼女に嫌悪を感じた。
こういうタイプは苦手だなって思う。
ウルウルとした瞳で上目遣いをすれば、男はなんでも自分の言う事を聞いてくれる…それを良く分かってて、行動する、そういう類の子。
俺は、ふぅーっと溜息を吐いてから、鞄を持って詰められた分だけ距離を取った。
「悪いけど。俺一瞬でも先パイ裏切ったりすんの嫌なんだ。もしかしたら、俺と先パイ釣り合わないって思われてんのかもしんないけど。でも、俺は先パイしか見えてないし、先パイしかいないから…。だから、ごめん」
それだけ言って、教室を後にしていく。
泣いてるようだったけれど、それを慰めるのは俺の仕事じゃない。