あなたを忘れていいですか?

「あ、ごめん。」

咲哉はスマホを持ち寝室に行く。

また?
どうして?

静かだった寝室からはバタバタと音がして、咲哉はジャンパーを手に持って出てきた。

「ちょっと用事できた。
ごめん、紫乃。
行かなきゃ。」

「えっ、何処に行くの?
なんで?
今日は私の誕生日だよ?」

「ごめん…」

その時、咲哉が握りしめてたスマホから女性の声が聞こえた。
何かを叫んでる。
だから、負けじと私も叫んだ。
咲哉の腕を掴んで、すがり付いた。

「行かないで!
今日だけは行かないで!」

でも咲哉は、腕を振りほどきごめんと一言発した後玄関から出て行ってしまった。

呆然と立ち尽くした私はその場で崩れて泣いた。

泣いて泣いて涙も枯れるんじゃないかと思うほど泣いた。

残されたリビングのテーブルのケーキとご馳走だけが、キラキラと輝いていた。



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