あなたを忘れていいですか?

どうして、そんな声で呼ぶの?

手を拭いて振り返ると、疲れきった咲哉の顔が見えた。

「なに?」

私から目を逸らす咲哉。

「紫乃、別れよっか?」

「もう、無理だ…」

何が無理なんだろう?
なんでそんなに苦しそうなんだろう?

嫌だって、行かないでって、何度も言ってもダメだったもんね。

私じゃ咲哉の彼女として無理だってことだよね。
高校時代から、咲哉はイケメンでモテモテで。
そんな咲哉に私は釣り合わないってことよね。

「荷物は後で取りにくる。」

無言の私に、咲哉はどんどん話を進める。

「合鍵はポストに入れとく。」

「じゃ、元気でな…」

背中を向ける咲哉に、すがりつくこともできなかった。
何も、言葉を発することもできなかった。

ただただ、咲哉の広い背中を見つめてただけ。

私達の恋は、あっけなく終わった。



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