あなたを忘れていいですか?
翌日、午前中には段ボールや電化製品が引っ越しトラックに積まれた。
私は11時の新幹線で東京へと向かう。

大家さんに鍵を返す前に、部屋をぐるりと見渡す。

たくさん思い出があるアパート。
三階建ての三階の角部屋の私の部屋。
階段を上がる咲哉の足音が聞こえてたっけな。

「バイバイ、私の部屋。
バイバイ、咲哉。」

ふっと息を吐き、部屋を後にする。
泣かない、もう咲哉のために泣かないと決めた。
もう、思わないと決めたんだ。

階段を降りて大家さんの部屋に行き、鍵を返す。

「お世話になりました。」

と、お菓子の箱を渡す。

「わざわざありがとう。
元気でね。
またこっちに来た時は声をかけてね。」

大家さんにお礼を言って、私は駅へと歩きだした。



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