あなたを忘れていいですか?
「紫乃、ただいま。
ごめん、遅くなって。
急に取引先に呼ばれてさ。」
慌てて帰って来たんだろう、咲哉の額には冬には似合わない汗をかいていた、
「おかえり、心配した…」
そう言って抱きついた私は、ちょっとした違和感を感じた。
仄かに香る香水の匂い、何故か湿ってる髪の毛。
「雨…?
雪でも、降ってきた?」
見上げた咲哉の顔は、少しの焦りを伴っていた。
真夜中には雪が降るかもとは言ってた。
テレビの天気予報は、今晩はホワイトクリスマスとお天気お姉さんは言ってたけど…もう降ってる?
「あ、あぁチラチラ降ってるよ。
シャワーしてくる。」
と、そそくさと浴室に向かう咲哉。
いつもはスマホをそこら辺に置きっぱなしなのに、その日に限ってスマホを持って行った。