先生が私に恋をした
「どうでしょうね」
「あんまり混むとゆっくり話せないから」
「仕事しに来てるのに、先生ったら」

クスクス笑いながら答えた

「その笑顔」
先生はそう言って目を細めて眩しそうに私を見た

「先生?」
「あ、いや何でもない」

いくつも重なったカルテをペラペラとめくる音が
診察室を埋め尽くした

先生の希望通り、今日は患者さんがいつもより少なかった

「奏さん、午前中終わり?」

午前中に来た患者さんたちの紹介状の返事をPCに入力
しながら、器用に顔だけ私に向けられた
画面見ないで打てるなんて、私からしたら神業だわ

「はい、終わりです。診断書にサインもらえますか?」

診断書を持って先生のデスクに近づく
滑らかなタッチでサインを済ますと

「奏さん、彼氏いるんだっけ?」
「いますよー」

サイン済みの診断書を三折りにして封筒に入れながら
そう答えた


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