先生が私に恋をした
その日の仕事はどこか上の空で、ボーッとする時間が
多かった

「奏さん、どうしたの?珍しくボンヤリしてるね」

午後からはフリーだったため、私は別室で作業していた
と言っても、カルテを開いたまま、ボーッと一点を
見つめていたんだけど。

「江口先生こそ、どうしたんですか?こんなとこに」
「今オペ終わって、帰る前にちょっと寄ってみた」

まともに話すのは初めてくらいかもしれない
いつもは挨拶程度で終わるから

「で、ボンヤリの答えは?」
「あ、まぁ、色々と思うことがあって、、、」
「仕事のこと?」
「え、あ、いや、そんなとこです」

変にテンパってグダグダな返事になってしまった
逆に怪しいじゃん、私。
普通に話せばいいのに、、、何かを悟られてるのかと
そんな思いもあった

「まぁーね、、、この仕事はちょっと特殊だしね
色々あると思うけど、奏さんは笑顔の方がいいよ」

思ってもみない意外な発言に驚いた

「奏さんの笑顔は俺の癒しだからさ」

そんな甘い言葉と、消毒のかおりを残して帰っていった


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