リンク・イット・オール



全身を預けられてしまう大きな背中。

夏の暑さに汗ばむ、高い体温。

朦朧とする意識の中、それらだけを感じていると、優しい歌声がかすかに聞こえた。



ゆるやかなメロディーに、柔らかな歌声。光さすような前向きな歌詞。

まるで子守唄のようなその歌に、安心するように目を閉じて、そっと意識を手放した。



それから数時間後、ふと目を覚ますと私は病院のベッドの上にいた。



『あ、目覚ました?気分はどう?』



そう声をかけてくれた女性看護師に、その名札を見て、ここが駅近くの病院だと気付いた。



『あの、私……どうして』

『熱中症と貧血で駅前で動けなくなってたんだって?男の子が届けてくれたよ』

『あの、その人の名前はっ……』

『聞いたんだけど、はぐらかされてすぐ帰っちゃった。でもよかったね、親切な人で』



わざわざここまで連れてきてくれた。

なのにお礼のひとつも言えずに、彼が誰かもわからないまま。



そんな彼の優しさに触れて、心穏やかになると同時にまた会いたいと思った。



会ったら『ありがとう』を伝えたい。

そう思っていたのに、実際会えても言えないまま。



それ以上に、伝えられない気持ちが、日に日に増えていく。






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