リンク・イット・オール
「挫折して諦めて、それでも日々の中にママがいた。そのうち悠が生まれて、いつしかサッカーチームのコーチに誘われて……今俺は、幸せだなって思えるよ」
「本当に……?」
「もちろん。あれからいろんな人と出会って、幸せのかたちはひとつじゃないって知った。心が折れかけたって、大事なのは寄り添ってくれる人がいることなんだって」
お父さんがサッカーを続けていたら、今の生活はきっとない。
怪我をしたとき、お母さんがなにも言えないままだったら、ふたりはそのまま離れてしまったかもしれない。
全て、“その日”があったからこそ、今あるんだ。
その幸せに、胸が温かくなった。
お父さんは、手元のカップに注がれたコーヒーをひと口飲んで言う。
「悠の思う人が今、どう苦しんでるのかはわからない。けど、その人のために悠はどうしたい?」
「どう、って?」
「支えたいのか、背中を押したいのか。それとも、傷つけないよう逃げ出したい?それを伝えるだけでも、変わるものがあるはずだ」
私が、どうしたいか。
彼にどうしてほしいか。
その素直な思いを、真紘先輩に伝える?
もちろん、真紘先輩に歌っていてほしい。
夢を諦めないでほしい。
だけど、そんなワガママを押し付けていいのかな。
無責任な言葉に、また突き離されてしまわないかな。
嫌われてしまったら、どうしよう。
そう思うと、怖いよ。
お父さんに聞けば、なにか答えが出るかもしれないと思った。
だけど、違う。
自分の心もはっきりしない、覚悟を決める勇気もない。
そんな状態で、答えが見つかるはずもなかった。