リンク・イット・オール



「あっ、楽譜」



慌てて拾い集めると、その楽譜があの歌であることに気づく。



私を、救ってくれた歌。

真紘先輩と再び出会うきっかけをくれた歌。



この曲を彼が口ずさんでいなかったら、私が忘れてしまっていたら。

きっと彼と再び出会うことはできなかった。

気持ちは今も沈んだまま。後悔だけの日々を過ごしていた。



その歌を抱きしめるように、両手でぎゅっと楽譜を抱える。

するとその時、背後のドアが開く音がした。



「あれ、悠。来てたんだ」



振り向くとそこにいたのは高田先輩で、彼は少し驚いた顔で私を見た。



「高田先輩。どうしたんですか?」

「楽器の弦、張り替えようと思って。悠はなんで?」

「えっ、なんで……ですかね」



なんで来たか、と聞かれても、はっきりとした答えが出なくて口ごもってしまう。



「……ま、部員なんだし、部室に来て当たり前か」



そんな私を見て、高田先輩はなにかを察したように言って部室内に鞄を下ろした。

そしてスタンドにかけてあった黒いベースを手に取ると、ペグを回し4本の弦を1本ずつ緩めていく。


< 167 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop