リンク・イット・オール
「ボーカルって歌うだけだから誰でもできる、とか言われるけど、実は一番難しいパートなんだよね」
「そうなんですか……?」
それを聞いていた高田先輩は、ベースのチューニングをしながら頷く。
「楽器は弾けば音が出る、といっても練習も必要だけど。でもいい音を出したいときは、エフェクターや楽器自体を変えればいい音も出る」
そう彼が視線で指すのは、足元に置かれたエフェクターという音色を変える機械だ。
「けどボーカルは自分自身が楽器だから。努力とか才能とか、そういうものに大きく左右されるんだ」
「自分自信が、楽器……」
喉だけじゃない、全身で音を出す。
それは、機械とは違う。
才能だけでも、努力だけでもダメなんだ。
高田先輩の言葉に、笹沼先輩もうんうんと頷き言葉を足す。
「ヒロは、元の声もいいけど、ちゃんと努力もしてるからな。朝晩走り込んで体力つけたり、乾燥させないようにケアしたり」
「えっ、そうなんですか?」
真紘先輩も、努力をしていたんだ……。
その努力を思うと、歌えないという現実が彼の心にいっそう重くのしかかっているのだろうと察した。