リンク・イット・オール



声が出ない。

どうしよう、怖い。

立ち尽くしたまま、足が石のように動かない。



初めてのその感情は緊張から徐々に恐怖心に変わっていく。

震えすら止まるほど、全身が強張るのを感じた。



喉が、締まる。

呼吸すらもまともにできない中で歌うなんて、できない。



そんな私を見て、観客席からはざわざわと声が聞こえる。



「あれー?ヒロは?」

「ライブには出るだろうと思って楽しみにしてきたのにー」

「期待して損した。ていうか、あれ誰?」



次々と飛んでくる落胆の言葉の中、彼がいないのならと出て行こうとする人もいる。



どうしよう

どう、したらいい

真っ白だった頭の中がようやく回り出すけれど、今度はパニックになってしまった。



聴いてほしいのに、届けたいのに。

臆病な自分から、変わりたいと思ったのに。

結局私は、なにひとつ変われないまま?



自分の情けなさに泣き出したくなる。

けれど、その時だった。



ざわめく人々の中、不意に目に入った姿。

暗い客席の中でマスクをつけたその人の顔は、よく見えない。

だけど、微かに当たるライトの明かりに輝く金色の髪から、私にはすぐわかった。

その姿が“彼”であること。





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