冬の魔法



放課後、私は図書館に来ていた。美影が居るような気がしたから。

「あ、若!今日のテスト、どうだった?」

図書館に入ると、美影は本を読んでいた。全く私の姿が目に入っていないようだ。少し、その場に立っていると司書さんが、私にそう声をかけてきた。司書さんに顔を向けた私は、「…完璧だった」とだけ返し、また美影に視線を戻す。

「……若竹さん…いつ、来てたの?」

本から顔を上げた美影は、私の姿を見て驚いていた。

「さっき来たばかりだよ」

「…そうなんだ」

「美影さ、読書好きなの…?」

そう聞くと、美影は目を輝かせながら頷いた。

「ふぅん…」と興味なさげに返すと、美影は頬を膨らませた。

「興味ないなら、なんで聞いたの?」

「…なんとなくかな…美影、この間は怒鳴ってごめん」

私がこの学校に入学して、初めて謝った瞬間だった。

「若竹さん…気にしてないよ」

「……美影さ、『悩み事があるんなら、僕に話せ』みたいなこと言ったでしょ」

「言ったね」

「本当はね、嬉しかったの…でも、嬉しく思う自分に腹が立つ自分も居てさ…」

「…そうだったんだ、ねぇ…若竹さん」

「…はい」

「無理しなくたっていいんだよ。立ち止まってもいい。時には、後ろに進んだっていい。無理して前に進もうとしなくてもいいんだよ?」

美影は、優しく微笑んだ。
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