冬の魔法
数日後の休み時間、私は1人で散歩をしていた。その辺を歩いていると、たまたま美影の姿を見かけた。美影の前には、1人の少女が。良く見てみると、私の親友の紅月 瑠梨(あかつき るり)だった。私は、近くに隠れ、様子を伺っていた。
「…美影くん!私、あなたのことが好きなの…!私と付き合ってください!!」
私の心は張り裂けそうになる程、バクバクと唸っている。好きな人を取られてしまうと言う恐怖のあまり、私はその場にうずくまった。
……きっと…瑠梨を選ぶよね…?私なんか、選ばないよね?と珍しく私は動揺していた。
「…あ、えっと…ごめん。僕、他に好きな子が居るから…それに」
美影は、そこで言葉を切り、一呼吸置くと言葉を続けた。
「氷翠を嫌っている人間となんか、お付き合いはしたくない!帰ってよ」
美影は、いつもよりも低い声でそう言った。
「私を嫌っている…?…瑠梨が?」
「…そうだよ、氷翠。隠れてないで出てこれば?」
瑠梨は、私がいたことに気づいていたようだ。
「…氷翠!?」
美影は、私がいたことに気づいていなかったようだ。
「…ごめん、美影。話を聞いてしまった」
美影と向き合い、頭を下げた。美影は、固まったまま動かない。その様子に、心の中で笑ってしまった。
「瑠梨…さっきのは、どういう事なの?」
頭を上げると、瑠梨を睨みつけるように見上げた。私よりも高い身長の瑠梨は、私を見下すように見つめる。
「だから、美影くんの言った通りだよ。私、あなたのことが大っ嫌いなの。何?天才って…何の努力もしていないあなたが、頑張っている私よりも上ってどういう事よ?ウザイから」
そう言った瑠梨は、私を嘲笑い、姿を消した。その場に取り残された私と美影は、無言で立っていた。会話も無く静まり返っている。