楠社長のお気に入り
「えっと…それじゃあ、今お邪魔してもいいですか?」


「ん…」


ソファーの端に座ると、幹さんはじっと私を見た。


この距離でもだめだったかな?


「あの、大丈夫そうですか?」


「あぁ、大丈夫」


目線をテレビに移し、沈黙が続いた。


何か話そうかな。いや、このまま黙って映画を観てたほうがいいかも。さっきから観たい気持ちが…。


幹さんが観ていたのは当時、かなり怖いと話題だったR指定のホラー映画で、そのグロさと想像を越える怖さから体調を崩す人が続出し、公開期間がかなり短くなったという幻の作品だ。


普通の女の子なら泣いたり、気持ち悪くなったりするんだろうけど、実は私、この作品が大好きすぎて短かった公開期間、毎日映画館行ってたんだよね。まさかここでまた観れるなんて…。DVDとか出てたんだ…。


「……………あんた怖くないの?」


「え?」


「いや…この映画かなりグロいし、普通のホラー映画とは違うから。ホラー系平気な零だってこれだけは観ようとしないくらいだし。無理しなくていいよ」


「無理なんてしてません!!この覆面殺人鬼がゾンビナースからヒロインを助けるシーンなんて、映画館で何度ときめいたか!!!この映画は怖さだけではなく、覆面殺人鬼に芽生えるヒロインへの恋心が…」


って、何熱く語ってるんだろ私!!




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