シュガーとアップル
重いため息が出る。
(やっぱり下町の雑貨屋さんで済ませれば良かったかな…。赤いリボンなんてどこにでも売っているんだし)
伯爵に「似合う」と言われただけで舞い上がり、勢いで街まで出て来てしまったけど、早々に出鼻を挫かれた感じだ。
(考えてみれば伯爵さまにとってはあんな言葉、ただのお世辞に過ぎないんだ。下町の人間に優しくしてくださるような紳士だもの。きっとあの方にとっては挨拶みたいなもので、別に深い意味はないじゃない)
それなのに、たった一言の言葉を大袈裟に受け取って、見栄を張るためにこんな場違いなところへ来てしまった。そう思うと途端に自分の行動が単純で幼稚に思え恥ずかしくなってくる。
来てまだ半時間もたっていないが帰りたくなってきた。
買ったものは商人に勧められたレシピの誘惑に負けて買った八百屋の芽キャベツ一袋。何をしに来たのやらわからない。
(せめてリボンだけでも買って……でもこの格好でこの中に入るなんてぜったい無理!でもせっかくここまで来たものを…)
帰るか帰らまいか、ハンナは十数秒ガラス越しの店内を睨み続けた。店員に不審感を抱かれるまで睨み続けてもなかなか決心がつかなかった。
そのうち自分が何をしているのかわからなくなって、こんなことをしている自分がいっそう惨めに思えてきた。
ため息をつく。
「……やっぱり帰ろう…」
「入らないのかい?」
突然後ろから聞こえた声に、ハンナはびくっと肩を揺らして振り返った。